すいせい

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このブログはデザイナー樋口賢太郎が綴る日々のことです
2020.10.29

デザインは環境によって生み出されるのか

非常勤を務めている多摩美術大学の対面の授業がようやく先月から始まりました。
まだコロナは終息していないので、今後も対面で続けられるのかわからないのですが、
とりあえずいまのところ通常営業となっております。

教えているのはグラフィックデザインで、「Minor food campaign」と題して、
自分が好きなマイナーな食べ物を、学生にそれぞれブランディングしてもらっています。
水沢うどんでも、阿蘇高菜でも、ビリヤニでも、マイナーな食べ物なら何でもいいので、
自分で選んだモチーフをデザインの力によって認知向上、普及して行く内容です。

デザイナーの仕事は価値をつくることだと僕は考えており、
世の中では新しい魅力的な価値を生み出せる人のところに仕事が集まっています。
まだ世に知られていないマイナーである食べ物をどのようにプロモーションするのか、
そのことは価値をつくることに他ならず、将来的に仕事でブランディングをするのとなんら変わりはありません。
課題を通して少しでも価値をつくることのきっかけになればと思っています。

ただ課題としてはシンプルだと思うのですが、意外と力量が問われるようで、
どうやって進めていけばいいのか途中からわからなくなってしまう学生も出てきます。
一番多いのはデザインのイメージが湧かないケース。

デザインする場合はイメージ=到達目標がとても大事で
最終的なビジョンがないと、進めづらいですし、モチベーションも高まりません。

そういったイメージが湧かない場合はデザインがどういう環境におかれるか考えてもらいます。
価格や売り場などの周辺的な事実を決めていくと逆説的にデザインが決定されるからです。

よくよく考えてみると、自分でデザインする場合も
周辺的な事実から導き出されることが多く、完全にフリーな仕事ってあまりないんですよね。
例えばパッケージデザインの場合は少なくともどういう売り場に置かれ、
いくらくらいの商品かという情報がないと、さきに進みません。

つまりデザインは環境によって生み出される側面が強くあるのです。

では環境として一番大事な要素はなにかというと、やはり「時代」だと思います。
いまの時流の中で最適化されているかどうかが、デザインのファーストプライオリティではないでしょうか。
この傾向は広告の分野ほど顕著で、時代にフィットしていないと効果を生むデザインにはなりません。
もちろんただ流行りを追うというのではなく、流行りを知った上で、
こういうデザインはどうですか?と提案できることが僕は大事だと考えています。

次は価格とターゲット。これは概ねセットのことが多いです。
ターゲットによって価値観、所得なども異なるので、価格はターゲットによって決まってくるし、その逆もある。
概ねターゲットは絞った方が効果的なので、
マーケターに、世界中の学生とサラリーマンと経営者をターゲットにしますと言うとほぼ反対されるでしょうが、
iPhoneなどの先例があるので、その意見が全てではないと思います。

あとは売り場。商品と場がマッチングしているかが大事。
お客さんがたくさん来る場所ではなく、商品に興味がありそうなお客さんが来る場所が基本でしょう。
いまはインターネットの影響で、売り場自体が消失する傾向にあり、売り方もだいぶ変わってきていて、
当然そのことはデザインに影響を与えています。

環境から決定される商品づくりのことを業界では「マーケットイン」と呼んでいます。
20代女性に綿密にマーケティングをやった結果、こういうニーズが見つかり、こういったテイストのデザインが売れそうです。
という話はよくあるのですが、あまりに綿密にやりすぎると商品としての面白さはなくなっていく傾向にあります。
対象となるマーケットが豊かでなければ、出て来る結果も当然面白くはならないからです。

逆に市場は一切見ずに、自分がいいと思う商品を納得いくまで追求しましたという方法は
「プロダクトアウト」呼ばれており、マーケットに依存しないので、まったく新しい商品をつくりだすことができます。

どちらの手法も一長一短で、iPhoneはプロダクトアウトだと思われがちですが
すでに存在していた音楽プレイヤーと携帯電話とインターネットを組み合わせて生み出したものなので、
マーケットイン的な側面もあります。

手法にとらわれずにいつもクリエイティブでいたいなあと思っています。
あくまでもクリエイティブでいるための手法なので。

1枚目の写真は最近の授業風景(だいぶ間引いて座っています)、2枚目は昨年12月頃の校庭の様子

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投稿者:Fionafar 2020-10-31 07:03:20

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2020.09.30

青いパパイヤの香り

家籠りの日々の中、むかし読んだ小説や映画などをみなおしていると、
若いときにはピンと来なかったモノゴトがわかるようになっていて面白いです。

再度観た映画で感銘を受けたのは「青いパパイヤの香り」。

観るのはおそらく10代の頃以来で、そのときはアジア系ののんびりした映画という印象くらいにしか感じなかったのが、
いまになってみるとよくこんな映画が撮れたものだなと、何度も膝を打ちながら楽しむことができました。

映画の舞台は1951年のベトナム。ある少女が資産家のもとに奉公に出てから大人になるまでが描かれています。
シンプルなストーリーなので難解なところはありませんが
主人公であるムイの心の内はあまり描かれず、何を感じているかは受けて側に委ねられるので
ある程度想像し、推し量かれる人の方が、この映画を楽しめるかもしれません。

ストーリーがシンプルなのはおそらくそっちが主ではないから。
監督がこの映画で描きたかったのは「暮らし」のほうだと思います。
もっと言えば「かつてベトナムに存在した暮らし」でしょうか。
当時電気は通っていますが、ガスや水道はなく、調理するにも火は炭火で、水も大きな甕に汲み置いたものを使っています。
そういった日々の生活が見事なまでに美しい。

ムイの奉公先である資産家の家屋は広い敷地のなかにゆったりと建てられていて、
パパイヤの木などが植えられた庭には鳥が飛び交い、虫の声が一年中響きます。
東南アジア特有の風通しがよい建物は、外と内が緩やかに繋がり、
室内にいても存分に自然の豊かさを楽しむことができます。

高く天井まで伸びる柱や扉に施された細工の美しさ、用いる石や木など素材のバランスの良さ。
重層的なつくりの空間は夜、明かりが灯ると、さらに奥行が増し、昼間よりも魅了されます。
最初のシーンが夜に始まるのは、おそらく監督も夜のほうが魅力的だと考えていたからだと思います。

手仕事による生活道具の数々にも目を奪われます。
当時は皿や茶器類、机や椅子などの素材は、まだプラスチックには置き換わってないようです。

大量生産される品々の粗悪さに声を上げたのは、イギリスのウィリアム・モリスやジョン・ラスキンらでしたが
1950年代のベトナムではマスプロダクションの波は押し寄せておらず
良質な手仕事の品々だけで構成された世界を見ることができます。
アンティークなどを揃えて撮影したのでしょう。

撮影時の監督は若干30歳くらいですが、よくその若さでここまでの世界を構築できたものだと感心します。
空間に対する鋭敏な感覚、器や調度品などを選ぶ目の確かさ、そして豊かさとは何であるのか答えを持ち合わせている聡明さ。

監督が考える豊かさとは、1950年代のこの家を映画の舞台にしたことだと思います。

近代化を経ると、手仕事は大量生産品に取って代わられ、建物もインフラを組み込んだものになってしまいます。
当時蚊帳を釣って寝ていましたが、暑いからといってあの空間にエアコンをつけるわけにはいかない。
エアコンは機密性が高いことで効果を発揮するので、風通しがいい家屋は全てをつくり変えなければ設置できません。
台所なども同じで、壊して以前と同じレベルの設えにするには、伝統家屋が要してきた年月、つまりは数百年はかかるでしょう。
そういった意味でこの時代を選んだ監督は慧眼の持ち主です。

舞台を資産家という設定にしたのも暮らしのスケールの幅が描けるからだと思います。
庶民の文化だけを扱うとなると、質素な器を扱うことはできても高価な器は難しいから。
また資産家であってもいわゆる成金ではなく、主人は芸術・文化にも精通し、とても趣味がいい。
しかし芸術を愛するあまり、本業の商売はそっちのけで、奥さん任せ。
ときどき有り金をポケットに入れて蒸発する設定もリアリティがあって面白かったです。
「売り家と唐様で書く三代目」の人ですね。

質ではなく利便性が世の中を牽引するようになって久しく、
人々はなかば強制的にテクノロジーと生活を交える時代になりました。
質と利便性の両方を兼ね備えた製品をつくりだすアップルのようなメーカーは珍しく、
暴力的ともいえる変化を受け入れていく状況はこれからも続いていくでしょう。

もちろんだからといって1950年代のような暮らしには後戻りできないと、
簡単に開き直ってしまってもいいものなのか、考えさせられる映画でした。

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2020.08.28

プロ化する社会

世の中が向かっている方向のひとつに、「プロ化」という切り口があるのではないかと、前々から感じていた。

どの分野においても、アマチュアリズムというか、緩くて曖昧な領域がだんだんと淘汰されていき、
きちんとオーソライズされた専門的な物事のみが価値や力を持つ方向に進んでいるように感じている。

例えばたった数十年前まではイタリア料理といえばピザとかミートソースのスパゲティくらいなものだったが
いまや本場イタリアでも手に入りにくい生ハムを食べることができるようになったし、
パスタやチーズも幅広い選択肢から選べるようになった。
ペペロンチーノをつくる際にオリーブオイルを乳化させないと本物じゃないよねとか、
ベーコンやパンチェッタではなく、グアンチャーレを使わなければカルボナーラとは言えないといった風潮までできつつある。
おそらくインターネットがなければ、ここまで先鋭的にはなっていないだろう。

いまやウェブを検索すればプロの世界でしか知り得なかった情報へ簡単にアクセスできるようになり、
その気になれば専門家以上の知識を得ることも可能である。
専門的な情報は権威と結びつきやすいので、これのみが絶対に正しいんだという価値観が大手を振るようになっている。

先鋭化以前がプロ、セミプロ、アマチュアのカテゴリーだったとすると、
いまはアマチュアという層が段々と薄くなり、プロとセミプロだけという構図に変わりつつあるように思える。

世の中の総プロ化である。

この現象が進むと、人々が求めるものも当然変わっていく。
例えばちょっとコーヒーでも飲むかという場合でも、
いままではファミレスで良かったのが、その道の専門店でなければ満足しなくなる。
現在ファミレスが斜陽になっている代わりに、コーヒー専門店がファミレス化しているのは
この「プロ化」が理由のひとつではないかと思っている。

本格的、本物、専門的な領域があるに越したことはないが
社会がすべからくプロ的になってしまうことがいいことだとは断言できない。

なんというかプロはプロの面白さもあるが、難しさも抱えているからだ。
それはデザイナーとして活動していると痛感する。

大学時代の恩師である佐藤晃一先生が、定年で退職される会で述べられた挨拶が身に沁みている。

「グラフィックデザイナーとして50年近く活動してきましたが、ずっといち素人として仕事に取り組んできました」

録音していたわけでないので、曖昧な記憶であるが、上記のようなことを仰っていた。
長い間世界的に活躍されてきた佐藤さんの口から出る言葉としては、とても意外だったが趣旨は理解できた。

プロフェッショナルになることで物事に慣れてしまい、新鮮な驚きや感動を失ってしまう危うさがある。
素人のほうがよっぽど真実が見えていることもあるので、初心を忘れないように気を付けてきた。
説教臭くならないように自分のこととして話をされていたが、
みなさんも注意したほうがいいですよというメッセージでもあるのだろう。

プロ化することで世にもたらされる豊かさや面白さがあることはよくわかっているが、それは諸刃の刃だと思う。

権威主義や原理主義みたいなものが横行し、排他的な息苦しさが生まれる可能性もあるだろうし、
情報がたくさんあることで、上記のように逆に物事が見えなくなったり、感動できなくなることも考えられる。

いまのような風潮の時代にはアマチュアの領域を守るためにはどうすればいいのか、
考えることが大事なのではないかと思っている。

たぶん一番簡単な方法はウェブやSNSなどは見ずに、自分のペースで好きに楽しむこと。
インターネットができる前の状態に戻れば最低限自分の範囲は守れるだろう。

そしてアマチュア宣言をするのもいいかもしれない。
これは意識的に物事を知らないスタンスを楽しんでいることを伝えるための宣言である。

アマチュアはプロの対義語でもないし、劣っているわけではない。
何にも縛られずに自由に楽しむ権利はいまや全力で守らないといけないのかもしれない。

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2020.07.31

身体性の書 3

おそらく誰にでも、手放すことができずにいつもそばに置いておきたい本があるだろう。

読み込むうちに血肉化していわば自分の身体の一部になったとでも言うのか。
「身体性の書」ではそんな本たちについて語ってみたい。

第1回はこちら

第2回はこちら

第3回目 蓜島庸二『町まちの文字』『祈りの文字』

この本をどこで手に入れたのか覚えていないが、独立して間もないころだったのは記憶している。

いわゆるモダニズムのデザインの教育を叩き込まれていた背景が自分にはあったが、
だんだんと民藝などの伝統的、地域的な文化にも心惹かれるようになり、
どっぷりと日本的な豊饒の海に浸りたいという気持ちを持つようになっていたころだと思う。

西洋的なデザインという意味ではグリッドシステムを理解していたので
アルファベットはコントロールできたが、日本語のフォントに関しては筆文字文化への知識の欠如があり
和文をきちんと扱えるかどうか不安があったのだ。

その背景にはデザインの環境がデジタルに移行してしまったことがある。
自分までがぎりぎり写植を触ったことがある世代で、現在ではデザインの作業は完全にモニターの中で行う。
明朝体などの活字文化を始祖とする流れはデジタルとの相性が良いが、
筆で書かれる文字をデジタルで表現しようとすると必ず齟齬が出て来てしまう。

例えばかすれや滲みをどう解釈すればいいのかという問題。
偶然に発生するアクシデンタルな現象により、
筆で書く際には同じ文字でもまったく同一に再現することは不可能である。
100回書いたら、100通りのかすれ、滲み、ハネが発生してしまう。

西洋のカリグラフィにもその傾向はあるが、より自由度が高い筆記用具である筆は変数が桁違いで、
デジタルに取り込むことはなかなか難しい。
カスレなどをスキャンして、偶然性を忠実に再現するフォントもあるが、
そこで表現されているのは書体設計というよりはリアリズムの転写であろう。
リアリズムはリアルにかなうわけはなく、結局は書家が書いたものにまで遡ってしまう。

筆文字のトメ、ハネ、鱗などの特徴を捉えて静的に表現するフォントや
寄席文字などの偶然性に依拠しない書体などはデジタル化できているが
筆文字の面白さの大事な要素である偶然性はいまだ含めることはできていない。

少し脱線したがとにかく現代に生きるデザイナーとして筆文字をどのように捉えればいいのか
その答えの一片を探して、この本を買い求めた。

『町まちの文字』は市井に生きる人々が自由に書いた文字、
『祈りの文字』は神社仏閣に関わる文字で構成されている。

どちらとも同時代的(昭和中期)に撮影したものに加えて、
著者がコレクションする紙物や古道具なども掲載されており、少し前の日本の姿を知ることができる。
宗教などの縛りなく、自由闊達に表現されているぶん、前者のほうが見ていて楽しい。
当時は張り紙や広告などにも、筆で書かれた字がたくさん使われており、街中で文字が踊っている。

蕎麦屋を始めるなら、書道も習わないといけないと言ったのはデザイナーの浅葉克己であるが
確かに達筆の墨文字が店内に用いられているとそれだけで蕎麦を美味しく感じるだろう。
どんなに良質なフォントをバランスよく組んだとしても店主の筆文字には敵わないと思う。

『祈りの文字』に登場する文字は宗教的儀式に関するものなので、
よりデザインと文字の関係を考えさせられる。
手で書くことで宗教性や呪術性を担保しているのならば、この分野が最もデジタルに移行しにくいのかもしれない。

この本を手にするとデザイン外のデザインの可能性を意識するようになる。
例えば文字でなにかを表現する際に、パソコンにインストールされているフォントから選ぶ行為がいかに狭い選択肢であると。

文化と文字は必ずセットである。
隷書なら隷書の、寄席文字なら寄席文字の、活字なら活字の文化的バックグラウンドがある。
この本は街中にかろうじて漂っていた筆文字文化の残り香を写し取っているのかもしれない。




『町まちの文字』
『祈りの文字』
著者 蓜島庸二
発行 芳賀書店
発行日 1975年6月25日

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投稿者:TfmeKopdUNbrCQEG 2020-10-29 19:14:48

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投稿者:nulxXWmVBeNvO 2020-10-29 20:13:01

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投稿者:ZixoHVSCI 2020-10-29 22:32:11

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