2012年9月

自分をいかして生きる

『自分をいかして生きる』
西村佳哲
ちくま文庫

掲題の本をたまたまいただく機会があり、とても面白く読むことができました。
一部では有名な?西村さんの本です。
(朝日新聞のフロントランナーにも出てたのでもうメジャーなのかな)

全編に渡って生き方と仕事に関する著者の考察が展開され、
それが的を得ていて、何をやりたいかわからない人やいまやってる仕事を迷ってる人には
とてもいい指針を示してくれると思います。

その人がその人らしくあるためにどうすればいいか、
それが一番大事と説く。

大学は卒業したもののニートになったり、何度も職を変えたりするのって、
自分に対する理想と現実のイメージの不一致がひとつの原因だと僕は考えています。
メディアが発達した現代では勝ち組と呼ばれる人々の情報が広範囲に発信され、
成功した裕福な人がどんな仕事や生活をしているか簡単にわかるようになりました。
その情報は成功を実現できる人にとっては目標になりますが、
非成功者にとってはストレスとなり、不満感、閉塞感、落伍感を募らせることになります。

書店で「カリスマ経営者になるための○○の方法」とか
「目指せスティーブ・ジョブス」のような本が平積みされているのを見ても
同じような気持ちになります。
高い理想を掲げて、それに向かってポジティブに邁進していくことが
世の中では求められているのは理解できます。
しかし努力には限界があり、全ての人がヒーローになれるわけではありません。
強迫観念のようにヒーローやカリスマになることを求めてくる状況にいると
それが当たり前のように感じてしまい、活躍しないことが不自然のようにさえ思えてきます。

「好きなことをみつけて仕事にする」という教育論も
見つけられない人にとってはプレッシャーになり、イメージとのギャップに苦しむことになります。
好きなことに熱中している人に比べると、
何もせずぼーっとしている自分は欠陥を持ってるように思えるからです。
いろんなことへ冷めた態度をとってしまう「無気力症」のもこの為だと思います。
若いうちからそういう教育論を受けることで、
生きることに対してある種の不感症になっているのではないでしょうか。
そもそも自分で好きな仕事を選べるようになったのって、ここ百年くらいのことで
それまでは意思とは関係なく与えられた仕事をこなすだけでした。
急に手にした自由に多くの人が戸惑っているのが現在の状況だと思います。

この本の優れている点は、好きなことを見つけてすぐにそこにジャンプするのではなく、
まずは自分はどういう人間で、自分らしさとは何かきちんと見つめようと提案するところです。
なぜならデザイナーであれ、陶芸家であれ、カメラマンであれ、サラリーマンであれ、
いい仕事をする人は「核となる自分らしさ」を持っているからです。

いい仕事をしているかは別として僕個人のことを言わせてもらえれば、
「尊重している伝統文化の中で本質を追求して、
より純度が高い方向に進んで行くことを好む」という核をもっています。
この「核」を使ってはいまはデザイナーとして仕事をしていますが、
全く別の仕事に転身した場合——例えばワインをつくる仕事——でも
そのことが同じように「核」となり仕事をしていくと思われます。
表面的には異分野に見えても、対象がデザインからワインに変わり、
尊重する文化が日本からフランスに変わっただけだからです。

もちろん自分の核がなんであるかということは
永遠の課題であるし、完全にわかることはないかもしれません。
しかし成功してヒーローになるというベクトルよりも自分らしさを探す方が有意義のように思います。
「いい自分らしさ」さえ見つかれば、どんな仕事をしたとしても
「いい仕事」ができる可能性が高いからです。

この本を読んで上記のように自分の中にある
「尊重している伝統文化の中で本質を追求して、より純度が高い方向に進んで行くことを好む」
傾向を改めて自覚しました。
と同時に自分らしさの表現って別にデザインじゃなくてもいいのかと
思えたことがとても面白かったです。
あと全くの異業種でも話が合う人って似た「自分らしさ」を核としているんでしょうね。

なのでワイン醸造家にでも転身しようかと考えている昨今です。
ウソですが…。

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