2014年4月

見る力と考える力の先

最近スタンフォード大や日本の一部の工科大などで、
第二のスティーブ・ジョブスを目指せとばかりに
デザイン的な感覚を教える工学部などが増えているらしい。

確かにスティーブ・ジョブスは美的感覚に非常に優れたエンジニアであり、
文系と理系の交差点に立てる希有の人物であることは間違いないのだが
そもそも一般大学と美術大学とでは、求めるものと学生の質が大きく異なっている。

まず一般大学が学生に求めるのは「考える力」である。
義務教育で長年はぐくまれ、入試で試される学力がこの力を指す。
テストだけで「考える力」が判断できるかは置いておいて
大学としては成績が良い生徒を合格させたいのではなく
「考える力」を持つ生徒が欲しいのだと思う。
成績というものはあくまでも「考える力」から導かれる
結果に過ぎないだからだ。

一方の美術大学で求められるのは「見る力」である。
美術大学でもある程度の「考える力」は必要だが、当然「見る力」が最も重視される。

見る力とはひとことで言うとデッサン力のことだ。
デッサン力とはここでも書いているように描ける力ではなく、
ものをきちんと見ることができる力を指す。
なので網膜に映る全てのものをおろそかにせず常に意識化し、
形や色や質感や陰影やパースペクティブなどを自分の手中におさめていく過程が
デッサン力を高める際には必要になる。
美術系に進む学生は誰に教わることもなく
絵を描いたりしてこの力を幼少期から訓練している。

つまり大学に入ってから「見る力」を養おうとしても遅きに失するのだろうし、
入試によって選ばれた学生の質も美術系とはだいぶ異なるだろう。

ではなぜスティーブ・ジョブスは両方を兼ね備えていたのかと言うと
教育の云々ではなく(実際に大学にもほとんど行っていないので)、
シンプルに人並みはずれた才能があったからだと思う。

エンジニア的な素質までは僕には判断できないので、
ダヴィンチ的な天才かどうかはわからないけれど、
グラフィック的な感覚について言えば、第一線で活躍するデザイナーとほぼ同等か
それ以上の実力を有していたのは間違いない。
例えば、スティーブに代わって、現在Appleのデザイナーのジョナサン・アイブが
iOS7以降のインターフェイスをディレクションしているが、前の方がはるかに良い。
スティーブの行き過ぎたスキューモーフィズム(バーチャルな物質感)を軌道修正して
フラットな方向に舵を取りたいのはわかるけれど、
トータルで使って楽しいデザインにはなってないと思うし、
色使いもやけに蛍光色っぽくて気持ち悪い。
スティーブがその道のプロよりもデザインをわかっていたのは
才能としかいえないのではないだろうか。

ではどうやったらスティーブみたいな才能を育てていけるのかと聞かれれば
まあ、生まれついての物なので、そういう人は何もしなくても育ちますよと答えるだろうし、
教育方法としては「価値をつくる力」を育てる方が大事なんじゃないかと思う。
「考える力」や「見る力」はあくまで手段であって目的ではないからだ。

日本の「ものづくり」が低迷しているのも
このあたりのシフトチェンジがうまく行ってないことが原因ではないだろうか。

いくら高度な技術力を有していたとしても、
あるいは高度な技術力によってものを作り出せたとしても、
価値があるものをつくれない限り意味はない。
逆に目指すべき価値さえわかっていれば、技術力を世界中から集められる時代に来ているし、
実際にAppleはそのようなやり方で世界を変えて来た。

この先、価値をつくれない企業や国は、つくれる側の経済的な植民地になるしかない
暗い未来が待ち受けていると思う。

学校でもそろそろ「見る力」と「考える力」の先を教え始めてもいいのではないだろうか。

今日の朝刊の記事より

 
とても面白い記事を見つけたので今日の朝刊より抜粋します。
 

広告代理店大手の電通が同社のVI(マークやロゴなど)をリニューアルする際に、ライバル会社である博報堂にデザインを依頼していたことがわかった。これは電通広報室が進めているもので、同室長によると、日本で一番大きな広告代理店にふさわしいクリエイティブをと考えた際に、自然と博報堂が浮かんできたので、依頼してみたと答えた。

一方同じ時期に博報堂も長年使ってきたVIをリニューアルする話が持ち上がり、電通に依頼することになったという。日本を代表するクリエーティブエージェンシーである博報堂のデザインにふさわしいのは、日本で一番メジャーな広告代理店だろうという結論に達し依頼したと語った。

両社とも自社のクリエイティビティには並々ならぬ自信と誇りをもっており、それに見合うだけのデザインをと考えた際に、自然とライバル会社に依頼することになったと口を揃える。広告代理店ならば競合相手ではなく、自社でデザインするほうが適当ではないかという記者の問いには「弊社が求めるクオリティはライバル会社にしか生み出せない」と答え、社員からも「あがってくるデザインが楽しみだ」「わくわくしている」などの肯定的な声しか寄せられていないと言う。

4月1日付の東京経済新聞の朝刊より抜粋
 
 
  

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