2015年10月

ヨーガン レールの最後の仕事

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先日まで東京都現代美術館で開催されていたヨーガン・レールの展示が素晴らしかった。

ご存知の人も多いと思うが、ヨーガンとはドイツ人のファッションデザイナーのことで、
長年日本を拠点に制作活動を行って来た。
昨年自動車事故で惜しくも亡くなったことも記憶に新しい。

当初は数ヶ月の滞在予定で日本を訪れたらしいが、
どういうわけかこの異国の地を気に入り、自らのブランドを築くまでになった。
多岐に渡るその活動はファッションの枠におさまりきらず
ライフスタイルや環境問題の領域まで踏み込んでいたように思える。

ファンじゃないのでそんなに詳しくないが、ヨーガンの場合は流行の最先端を切り開いて行く
ファッション業界の王道とはちょっと違い、
飽きずに長く着られるような普遍的な服をつくることを目指していたような印象が強い。
石油製品や合成染料などをなるべく使わず、天然素材で制作する姿勢も貫いた。
環境や人になるべく負荷をかけずに制作することを考えた結果として天然素材があったのだろう。

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晩年は東京と八重山諸島のふたつの場所で生活を送っていた。

だいぶ前に八重山の自宅の写真を見たときに、
なるほどヨーガンとはこういうタイプの人なのかと思った。
ヨーガンの自宅は、昔からその地域に伝わる民家を極力生かすように手が入れられ、
料理好きのヨーガンらしく、台所には薪をくべるタイプの沖縄のかまどが据えられていた。
邦人でさえ自国の文化をおろそかにしているのに、
たまたま日本を訪れたドイツ人が邦人以上に歴史の文脈を汲み取り、
豊かな生活を体現している。その理解力に恐れ入った。
ドイツ人が八重山の地域性をきちんと尊重し家を建てたことを、
中途半端な洋風の家を増産している日本人としては肝に銘じなければいけないだろう。

この自宅近くの砂浜には毎日たくさんの漂流物が流れ着く。
貝殻や珊瑚のかけらだけならいいが、さまざまなゴミが流れ着くようになり、
近年ではとりわけプラスチック製のゴミが目立つようになったらしい。
細かい破片からおおきな容器まで、自然分解されにくいので世界中の海を漂い、
太平洋には日本の4倍もの面積を持つゴミベルトまで存在していると言う。

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このような状況を憂いてヨーガンは漂着したプラスチックのゴミでランプを制作し始める。

ゴミから何か新しい価値を生み出すことで、この問題に目を向けてもらうのが目的だ。
この姿勢からはデザインとアートの本質である「問題解決」と「問題提起」の関係を思い出す。

基本的にデザインは問題解決、アートは問題提起の役割を担っているが
優れた表現はその両方を同時に行うことも可能で、今回のヨーガンの活動はまさにそれにあたる。

この場合の問題提起とは、ゴミでも扱い方、見方によって
これだけ美しいものになるという視点だろう。
見つけようと思えば、どんな状況にでさえ美しさを見つけていけるということを提起している。
それをゴミという極端なカテゴリーから見つけて、提案している姿勢がたまらなくカッコいい。

一方の問題解決は、とてつもない量のプラスチック製のゴミが海を漂っている現状を
なるべく多くの人に知ってもらうことにある。
ただ事務的に報告するだけでは、世間の耳目を集めることは難しいので
魅力的なプロダクツをつくることがベストな解決法だとデザイナーであるヨーガンは考えた。
そしてその目論みはこれ以上ないくらい見事に達成された。

アクリルやポリエステルなどの石油由来の素材を嫌悪していたたヨーガンが
最後の最後にプラスチックを手に取らざるを得なかったのがなんとも皮肉だし、
その姿勢からはそこまでしてこの問題を伝えたかったのかという意気込みが伝わってくる

「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるであろう」と
レヴィ=ストロースは『悲しき熱帯』の中で述べている。

ディストピア系の映画や小説のリアリティが高まる昨今だが、
未来は決して悲観するものではないと思う。
変えようと思えば、いい方向に変えられると信じ、
実際に行動することからしか明るい未来はやってこない。

そのひとつの方向性をヨーガンのランプは照らしているのではないだろうか。
 

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