すいせい

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デザイナー樋口賢太郎が
綴る日々のことです

究極のふつう」とは一体何なのか?

ふつうなのに究極って矛盾しているじゃないか?なぜ?と思われる方もいらっしゃるかと思います。
今回は民藝について話を進

めていくことでそのことを浮かび上がらせたいと考えています。  

 

<民藝の誕生>
ここのエントリーでも書きましたが民藝というのは 一般的にとても誤解されているんじゃないでしょうか。
残念な事にいまとなっては言葉の響き方も当時とはだいぶ変わってしまってお土産物みたいなイメージが強いと思います。
そもそも民藝という言葉は1925年、柳宗悦を中心とし、陶芸家 河井寬次郎、濱田庄司らによって提唱された造語であります。
よく耳にするし、さも昔からありそうですが、実は割と最近できた言葉なのです。

 

この言葉がつくられた背景には押し寄せる近代化の大きい波がありました。
当時、政治・経済・産業・インフラなどを始めいろいろなものが刷新されていき
それまで使っていた日用品も大量生産の対象となりました。

もちろん工業化される事で多くの人々の手に渡り便利になったものも沢山あります。
しかし味気ないものに変わってしまったものも少なくありませんでした。
そのような失われゆく日用品を憂い、守ろうとしたのが柳達だったのです。

 

例えば竹製のざるなどを単純にプラスチックに置き換えても それまでのクオリティを維持することはできません。
なぜならそれまで使っていた日用品は何世代にも渡って人の手を介し改良されてきた とても完成度が高いデザインだったからです。
日常から離れることなく少しずつ改良され、しかも世代を経ることでより洗練され使いやすく変化してきました。
それはまるで数百年かかってわずかに成長する鍾乳洞のつららのようなもので
一介のデザイナーの才能やひらめきではなかなか到達できない世界であります。

 

当時の人は失うことになってはじめて、それまでありふれていた日用品の素晴らしさに気付かされたのです。

 

このようなデザインを一般的にはアノニマスデザイン(anonymous design)と呼んでいます。
アノニマスというのは「作者不詳の」という意味で デザイナーがデザインしたものではないが、
デザイナーには超えることが難しい普遍的なデザインのことです。

いまとなっては民藝の真の意味を伝えようと思うと アノニマスデザインという言葉の方がうまく伝わるかもしれません。
柳宗悦が守ろうとしたものはまさにこのアノニマスデザインでした。

 

連綿と受け継がれてきたバトンを次の世代に渡すべく奔走し、「民衆的工藝」を略して民藝という言葉を考え出しました。

 

当時の日本にはそのようなデザインを指す言葉はなかったので
宗悦が新しく「民藝」という言葉を作る必要があったのです。

 

概念すらなかった時代に民藝という言葉を作り出し、そこに価値を見出したのは大いなる発明だと考えています。
日常の中に溶け込み、目の前から消えてしまうとどんな形であったのか思い出すこともできない
「ふつう」の日用品。しかしこの「ふつう」は究極のふつうなのです。

 

写真:龍門司焼き(鹿児島) 芭蕉ほうき(沖縄)

 

<つづく>

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